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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)679号 判決 1954年1月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤竜雄の上告理由第一点について。

論旨は、本件宅地の買収を適法であるとした原審の判断は昭和二四年(オ)第五三号最高裁判所の判例を誤解し延いては自創法一五条一項二号の解釈を誤つた違法があるというのであるが、原審の認定したところによれば、本件宅地につき買収申請人杉原淳三、竹中勇、鈴木俊三は賃借権を、田村米二は使用貸借による権利を有し、いずれも右宅地上に住家、納屋、牛小屋等を建設し、右住家から二〇間ないし八丁余の距離にある自創法によつて解放された農地の耕作に従事してきたものであるというのであるから、本件宅地を農地経営上必要なものとして買収適格を具備すると判示した原審の判断は正当であつて、右判例に反することなく、また自創法の解釈を誤つた違法もない。

同第二点について。

論旨は、本件の宅地は田村米二外三名の耕作者が夫々住家を設けその敷地等に使用しているのであるから、被上告人が本件宅地を買収しても右田村米二外三名に売渡す外なく、結局買収の目的は特定個人四名の耕作者の利益を図ることに存するから、公共性がなく憲法二九条三項に違反するというのであるが、自創法による農地改革は、同法一条に、この法律の目的として掲げたところによつて明らかなごとく、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るという公共の福祉の為の必要に基いたものであるから、自創法により買収された農地、宅地、建物等が買収申請人である特定の者に売渡されるとしても、それは農地改革を目的とする公共の福祉の為の必要に基いて制定された自創法の運用による当然の結果に外ならないのであるから、この事象のみを捉えて本件買収の公共性を否定する論旨は自創法の目的を正解しないに出た独自の見解であつて採用できない。(昭和二八年一一月二五日言渡同二四年(オ)一〇七号大法廷判決参照)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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